第120章 記憶の欠片<参>
人形の顔を見た瞬間、炭治郎は奇妙な既視感を感じた。
(見覚えがある・・・、あの顔)
炭治郎は人形を凝視したまま、少年に問いかけた。
「手が六本あるのは、なんで?」
「父の話によると、あの人形の原型となったのは実在した剣士だったらしいんですけど、腕を六本にしなければその剣士の動きを再現できなかったからだそうです」
炭治郎は少年の話を聞きながら、先ほどの既視感の正体を考えていた。
しかしいくら記憶をたどっても、思い出すことはできなかった。
「その剣士って誰?どこで何してた人?」
「すみません。俺もあまり詳しくは・・・。戦国の世の話なので」
少年の答えに、炭治郎は驚いて目を瞬かせた。
「汐、聞いたか?あの人形は戦国の世から存在するらしい・・・」
炭治郎は隣にいた汐に顔を向け、ぎょっとした。
汐は青白い顔で頭を抑えながら、荒く息を吐いていた。
「汐!?どうしたんだ!?」
炭治郎がそう言った瞬間、汐は小さくうめき声をあげながら蹲った。
「汐、汐!しっかりしろ!!」
尋常ではない様子に、炭治郎は慌てて汐に駆け寄りその両肩を抑えた。
汐の身体は小刻みに震え、すすり泣くような声まで聞こえる。
何が起こっているかわからず困惑する炭治郎だが、突然すすり泣きが止まった。
息をのむ炭治郎の前で、汐がゆっくりと顔を上げた。
「ご・・・めんな・・・さい・・・」
汐の口から泡のような謝罪の言葉が零れたかと思うと、その両手を伸ばし炭治郎の両頬を包み込むように触れた。