第119章 記憶の欠片<弐>
「あんた・・・鋼鐵塚さん!?」
「しーっ、こいつが起きちまうだろうが!」
「いや起きて欲しいんだけど・・・、っていうかあんた、今までどこほっつき歩いてたのよ!」
汐の問いに鋼鐵塚は答えず、汐から手ぬぐいを奪い取ると、持ってた水筒の水をかけて汐に渡した。
汐はそれをそっと、炭治郎の額に乗せると、炭治郎は小さくうめいた。
「で、あんたはこんなところで何をやってたの?聞けば炭治郎の刀を打ってないって話じゃない。里長さんも他の連中も、あんたを血眼になって捜してたわよ?」
「・・・・」
「それと、あんまり鉄火場さんを心配させないでよ。あの人、あんたがいなくなったって聞いて、尋常じゃないくらい落ち込んでたのよ?」
「はあ?焔が?なんで・・・」
鉄火場の名を出した途端、鋼鐵塚は明らかに動揺したように身体を震わせた。それどころか、鉄火場の下の名前を呼んでいることに気づく様子もなく。
すると炭治郎の瞼がぴくぴくと動きだし、起きる兆候を見せ始めていた。
「瞼がピクピクしだした!!コイツ起きる!!」
鋼鐵塚は早口でそういうと、汐に向かって顔を近づけながら言った。
「俺がここにいたことは誰にも言うんじゃねえぞ!じゃあな!!」
鋼鐵塚はそれだけを言うと、まるで風のように坂道を下っていった。
汐は呆然とその背中を見つめていたが、炭治郎が小さくうめくと同時に視線を下に向けた。
すると炭治郎の目がぱっちりと瞬時に開き、汐の青い目と視線がぶつかった時だった。
「あれ・・・汐・・・?俺・・・はっ!!」
炭治郎はがばりと身体を急激に起こし、汐は慌てて背中を逸らした。
「ちょっと!急に起き上がってこないでよ!あんたの頭は凶器なんだから!!」
「あ、ごめん。いや、それよりもさっき、鋼鐵塚さんがここにいなかったか?」
炭治郎はあたりを見回しながらそういうと、汐は顔を引き攣らせながら無言のまま首を横に振った。
「そうか、気のせいか・・・」
普段なら匂いで人の嘘を見抜く炭治郎だが、今は温泉の匂いのせいかそれに気づくことはできなかった。