第119章 記憶の欠片<弐>
「俺たちは、それぞれの場所で日々戦って――「悪いけど」
しかし無一郎は、そんな炭治郎の言葉を冷徹に遮ると、淡々と言い放った。
「くだらない話につきあってる暇、ないんだよね」
そう言うなり、無一郎は炭治郎の首筋に容赦ない手刀を叩き込んだ。
「炭治郎!!」
ぐらりと傾く炭治郎の身体を、汐は咄嗟に受け止めた。箱がガタリと音を立て、中にいるだろう禰豆子の微かなうめき声が聞こえた。
無一郎はそんな二人に目もくれず、震える少年に向かって鍵を出すように強要した。
少年は汐と炭治郎を見ると、渋々と言った様子で鍵を渡した。
無一郎は鍵を受け取ると、そのまま何事もなかったかのように背を向けると歩きだした。
「一つだけ言っておく」
去ろうとする無一郎の背中に、汐は静かな声で言った。
「何?いい加減しつこいんだけど・・・」
「刀鍛冶師は鬼と戦う力は無くても、その存在は無意味でも無駄でもない。それだけは頭に叩き込んでおいて」
汐の言葉に、無一郎は思わず足を止め目を見開いた。思わず振り返って汐の姿を見るが、汐は倒れた炭治郎の介抱に手一杯らしく、無一郎の視線に気づかなかった。
(何だ?今の感じ・・・)
しかしその違和感は瞬時に消え、無一郎は再び首を傾げるとそのまま何処へと去って行った。
「とにかく、炭治郎をこのままにはしておけないわ。あんた、ちょっと手伝って。この水筒に水を汲んできてほしいの」
汐の言葉に少年は「わ、わかりました!」といい、水筒を受け取ると走り去っていった。
汐は気を失った炭治郎の背中から箱を下ろし、羽織を脱ぐと自分の膝に掛け、炭治郎の頭をその上に乗せた。
すると
「・・・水ならここにある」
背後から別の声が聞こえ、汐は思わず飛び上がりそうになった。
そこには見覚えのあるひょっとこの面をつけた、一人の男が立っていた。