第119章 記憶の欠片<弐>
「柱の時間と君たちの時間は、全く価値が違う。少し考えればわかるよね?刀鍛冶は戦えない。人の命を救えない。武器を作るしか能がないから」
氷のような言葉が少年を穿つが、無一郎はそれに気づくこともなく左手を差し出した。
「ほら、鍵」
小刻みに震える少年を見て、汐は頑張っている鉄火場を思い出し、かっとなって無一郎に向かって拳を振り上げた。
だが、それよりも先に炭治郎の右手が、無一郎の左手をひっぱたいた。
これには汐だけでなく、少年も驚いて身を震わせ、無一郎はきょとんとした顔で炭治郎を見つめた。
「何してるの?」
「こう・・・何かこう・・・すごく嫌!!」
炭治郎は一呼吸入れた後、両手をわきわきと動かしながら声を荒げた。
「何だろう、配慮かなあ?配慮が欠けていて、残酷です!!」
「この程度が残酷?君・・・」
「正しいです!!あなたの言っていることは、概ね正しいんだろうけど、間違ってないんだろうけど・・・」
無一郎は首を傾げながら炭治郎を見据えると、炭治郎はさらにまくし立てた。
「刀鍛冶は重要で大事な仕事です。剣士とは別の、凄い技術を持った人たちだ。だって刀を打ってもらわなかったら俺たち、何もできないですよね?」
炭治郎はしっかりと無一郎を見据えながら、拳を握りしめて言った。
それを見た汐も、怒りを抑えながらも冷静に言い返す。
「そうね。あんたさっき、刀鍛冶師は戦えないなんてほざいてたけど、土俵は違えど命を守る刀を作るために、あらゆる苦行に血反吐吐きながら戦っているわ。戦ってんのはあたし達だけじゃない。柱だろうがそうじゃなかろうが、関係ないわよ」
汐の静かな声に、無一郎の眉根が微かに動いた。
「汐の言う通りです。剣士と刀鍛冶は、お互いがお互いを必要としています。戦っているのはどちらも同じです!」
二人の心からの主張は、目の前の無一郎だけでなく、背後の木の影に隠れていたある男の耳にも届いていた。