第118章 記憶の欠片<壱>
(!!)
息をのむ汐の前で、少年の身体は吸い込まれるように地面に落ちた。しかし無一郎は、そんな彼に気遣う様子もなく、あろうことか胸ぐらをつかんで無理やり引き起こした。
「ぐ・・・、うぐっ・・・」
少年は苦し気に身体を震わせながらうめき声をあげていた。流石に暴力沙汰を見逃すわけにはいかなかった汐は、飛び出すと無一郎の腕をつかんだ。
「ちょっとあんた、何やってんのよ!手を放しなさいよ!!」
突然現れた闖入者に、無一郎の視線が少年から汐へ移った。その無機質な"目"を見て、汐の身体は微かに震えた。
「声がうるさいな・・・、誰?」
この様子を見るに、無一郎は汐の事は覚えていないようだったが、そんなことよりも汐は何とかこの状況を打開しようと、声を張り上げた。
「あたしの目の前で胸糞悪いことしないでって言ってんの!いいからさっさと手を放しなさいよ!!」
汐はそう叫んで無一郎と少年を引きはがそうとしたが、掴んだその手は華奢な見た目に反してびくともしなかった。
(な、なんなのコイツ・・・、炭治郎よりも小さいくせに、びくとも・・・)
「君、本当にうるさいな。そっちが手を放しなよ」
無一郎はそう言うなり、左肘を汐の鳩尾に容赦なく叩き込んだ。
「ぐっ・・・!?」
その衝撃で汐は膝をつき、こみ上げてくるものを吐き出しながら、激しくせき込んだ。
無一郎はその姿を見て、鬼殺隊員とは思えない程の弱さに息をつくが、先ほどの感触に違和感を感じた。