第118章 記憶の欠片<壱>
それから数刻後。鉄火場が再び作業を開始すると言ったため、汐は邪魔をしてはいけないと思い帰路につくことにした。
鉄火場がやる気を出してくれたことは勿論、汐が知らなかった玄海の新たな一面も知ることができて、汐の気分は重畳だった。
(さて、今日は特にやることもないし、何をしよう。身体も少し鈍って来たし、そろそろ動かしたいところね・・・)
汐はそんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、突然前方から聞こえてきた怒声に肩を震わせた。
「だから何度も言ってるだろ!"あれ"はもう危ないんだ!!」
汐は気配を殺してそっと近づくと、前方に二つの人影が見えた。
一人はとても小さく子供の様で、背中に【火男】と文字が書かれた陣羽織のようなものを着ていた。そしてその前には、隊服に身を包んだ、汐と同じくらいの身長の少年が立っていた。
「あれ?あいつ、確か・・・」
その隊服の少年に、汐は見覚えがあった。それは柱合裁判のときと、蜜璃と柱へのあいさつ回りをしたときに出会った少年。
最年少で柱の座についた、神童とも呼ぶべき彼の名は――
「霞柱・時透、無一郎・・・」
何故彼がここにいるのか、何をしているのか。汐はそれがどうしても気になり、そっと近寄った。
「どっか行けよ!!何があっても鍵は渡さない、使い方も絶対教えねえからな!!」
無一郎の前で怒鳴り声を上げているのは、十歳ほどのひょっとこの面をつけた少年だった。
彼は余程怒っているのか、頭から湯気を吹き出させる勢いで騒いでいた。
(なんだか穏やかじゃないわね。このまま喧嘩になったら目覚めが悪いし、何とかしなくちゃ)
汐がそう思って一歩踏み出そうとしたとき、不意に無一郎の右手が動いたかと思うと、そのまま少年の首筋に手刀を叩き込んだ。