第118章 記憶の欠片<壱>
(鋼鐵塚なら研げるかもしれないが・・・いや・・・!)
「汐殿。この懐剣の研磨、私にやらせていただけないでしょうか?」
「えっ!?そりゃあ、やってくれるならありがたいけど、でも大丈夫?あたしの日輪刀だってまだできていないのに」
「確かに非常に難しくはありますが、不可能ではありません。それに、私に再び槌を振るう決意を抱かせてくださった貴女は、私の恩人とも言っても過言ではありません。そんな貴女の為に、私もできることをしたいのです。どうかお願いします。私に任せてください!」
鉄火場の力強い声に、汐も首を横に振ることなどできずに頷いた。すると、鉄火場は嬉しそうに頭を下げた。
面で表情は見えないが、きっとその下は笑顔だろうと、汐は心から思った。
「あの、その、このような状況で口にするのは心苦しいのですが、汐殿にお願いがあるんです」
「お願い?何?」
「その、まずは汐殿の身体の寸法を測らせてもらいたいのと、その、もう一つは、貴女の歌を聴かせてほしいのです」
鉄火場の頼みに、汐は目を見開いた。
「風の噂で、汐殿の歌声は天下一品だと伺いました。言い方は悪いですが、このような状況ではないと聴く機会はないと思いまして・・・、あ、汐殿が嫌なら無理にとは言いませんが・・・」
「嫌なわけないじゃない。いいわよ。でも、天下一品はちょっと言いすぎかも」
汐ははにかんだ笑みを浮かべると、一つ咳払いをして口を開いた。
その口から奏でられた歌は、力強く、そしてどこか儚い、まるで燃え盛る炎のような歌だった。
その歌を聴いていた鉄火場は、体中から決意が漲ってくるのを感じたのだった。
やがて歌が終わると、鉄火場は割れんばかりの拍手を汐に送った。
「素晴らしい歌をありがとうございます。やはり、噂にたがわぬものでした」
「そんな、大げさよ。でも、あたしの歌が誰かの心に響いてくれるってのは、いいものよね」
そう言って笑う汐に、鉄火場の心も温かくなった。