第118章 記憶の欠片<壱>
「ところで鉄火場さん。この散らばっている巻物や紙はいったい何なの?差し支えなければ教えてほしいんだけど」
汐が床に散らばるものを指さすと、鉄火場は小さく笑いながら言った。
「これは私の師、鉄火場仁鉄が遺した指南書です。基礎から極意までと、あの人の刀鍛冶師としての全てが記されています。あの日、貴女が帰った後、私はこれを見て一から見直すことにしたのです。今更基礎などど、滑稽にもほどがありますが」
「あら、基本は馬鹿にできないわよ。あたしも全集中・常中を覚えようとしたときも、基礎訓練を重点的にこなしたわ。その結果、いろいろあったけれど習得できたの。だから、あたしは鉄火場さんを滑稽だなんて思わない」
汐の凛とした声に、鉄火場ははっとしたように顔を上げた。そこにはからかいの意思など微塵もない、汐の澄んだ目があった。
それを見た鉄火場は、汐の担当になれたことを心からうれしく感じた。
「あ、そうだ。鉄火場さんに会ったら聞いてみたいと思っていたんだけど、おやっさんの刀を打ってたのって鉄火場さんのお師匠さんよね?前に鱗滝さんから少し聞いたんだけど、おやっさん、結構な頻度で刀ぶっ壊してたって・・・」
汐がそういうと、鉄火場は少し考える動作をした後口を開いた。
「はい。玄海殿は確かに刀をよく破損しておられました。私が知るだけでも三十二回は壊していたと」
「はぁ!?三十二!?」
「はい。しかもそれだけではなく、日輪刀を売ろうとしてお仲間に酷く叱られたとも聞いています。その知らせを聞いたときの師匠は、鬼よりも恐ろしかった記憶があります」
「どんだけ馬鹿やらかしてたのよ、あの爺。何だかごめんね」
汐が苦々しげに言うと、鉄火場はくすくすとおかしそうに笑った。