第117章 刀鍛冶の里<肆>
それから数日後。汐と炭治郎は微妙な雰囲気を漂わせたまま、以前よりは一緒に行動することが少なくなった。
それに甘露寺は心配そうに見守るものの、幸か不幸か彼女の刀の手入れが間もなく終わることを、隠から告げられた。
「あら~、もうそろそろ行かなきゃいけないのね」
「あ、そうか。あたしと違って、みっちゃんは手入れだけだったもんね。見送るわ」
「いいのいいの。多分深夜に経つから、しおちゃんは刀ができるまで、のんびり待ってて」
「そうはいっても、みっちゃんが戦いに行くのに、あたしだけ羽を伸ばすわけには・・・」
少し残念そうに俯く汐に、甘露寺は両手で汐の頬をつまみながら言った。
「もうそんな顔をしないの。せっかく炭治郎君とも会えたんだから、笑っていないと」
「ちょっ、あたしは、その・・・!」
炭治郎の名を出しただけでしどろもどろになる汐に、甘露寺はこれ以上ない程愛しさを感じた。
「あれ?甘露寺さんと、汐?」
後ろから声が聞こえて振り返ると、おにぎりを乗せたお盆を持った炭治郎と、その隣に禰豆子が立っていた。
「あ、炭治郎。あのね、みっちゃんの刀の手入れが終わったから、深夜に経つんですって」
「え?そうなんですか。残念だなぁ」
炭治郎も汐と同じように眉根を下げ、残念そうな顔をした。そんな二人を見て、甘露寺は少し寂し気に微笑んだ後、そっと口を開いた。
「しおちゃん、炭治郎君。よく聞いて。私達は命を懸ける仕事をしているから、また生きて会えるかどうかなんてわからないけれど、がんばりましょう。あなたたちは上弦の鬼と戦って生き残った。これは凄い経験よ。実際に体感して得たものは、これ以上ない程価値がある。五年分、十年分の修行に匹敵する。今の炭治郎君たちは、前よりももっと強くなってる」
そう言って甘露寺は、しゃがんで禰豆子の頭を優しくなでた。しかし、その顔は、柱らしい威厳に満ちたものだった。
「みっちゃん・・・、あんた本当に柱だったんだね・・・」
「この雰囲気でそんなことを言う!?しおちゃんお願いだから、ちょっとは空気読んで!」
「あー、ごめんごめん。失言だったわね」
再び顔を崩しながら怒鳴る甘露寺に、汐は慌てて謝った。