第117章 刀鍛冶の里<肆>
「まあともかく、私、甘露寺蜜璃は竈門兄妹を応援してるよ!もちろん、大切なしおちゃんもね」
「ありがとうございます、甘露寺さん。でもまだまだです俺は。宇髄さん“勝たせてもらった”だけですから。もっともっと頑張ります、鬼舞辻無惨に勝つために!」
「そうね。あの人がいなかったら、あたし達はとっくに死んでたわ。あたしもみっちゃんの弟子として、あいつをぶちのめすためにがんばるわね!」
二人の力強い言葉に、甘露寺の胸は激しく音を立てた。
「しおちゃんと炭治郎君は長く滞在する許可が出てるのよね?」
「え、はい」
何故かもじもじと身体をよじりながら、甘露寺は恥ずかしそうに顔を赤らめながら言うと、炭治郎にこっそりと耳打ちした。
「この里には、強くなるための秘密の武器があるらしいの、探してみてね」
それから汐の元に移動すると、炭治郎と同じように耳打ちした。
「しおちゃん、頑張ってね。炭治郎君ともっともっと仲良くなれる好機よ」
固まる汐をしり目に、甘露寺は大きく手を振りながら去って行った。
「まったくもう、みっちゃんたら、いきなり何を言い出すのかしら。ねえ炭治郎?」
赤くなる顔を隠しながら炭治郎の方を振り向くと、炭治郎はしばらく呆然としていたが、突然お盆を持った両手を上げた。
その瞬間、彼の鼻から鮮血が吹き出した。
それを見た禰豆子は、目を大きく見開き、慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫だ禰豆子。ちょっと驚いただけだ。決して、変な事を考えたわけじゃなく・・・」
炭治郎がそう言った瞬間、背後に凄まじい殺気を感じて思わず姿勢を固くした。
恐る恐る振り返ってみれば、全身から殺意を滲みださせながらたたずむ、汐の姿があった。
「う、汐・・・、さん?」
思わず敬称で呼んでしまうほどのただならぬ気配に、炭治郎は今度こそ自分の命が終わるかもしれないと覚悟した。
しかし汐は、握りしめた拳を突然壁に打ち付けると、にっこりと笑顔を炭治郎に向けて言った。
「何?どうしたのそんな顔して。大丈夫よ。むやみやたらに、人を殴ったりはしないから」
そういう汐だが、それがかえって炭治郎を怯えさせ、彼は微かに土ぼこりが上がる壁にめり込んだ拳を呆然と見つめていた。