第117章 刀鍛冶の里<肆>
汐の分の夕餉も用意され、それに箸をつけながら汐は思い出したように言った。
「あ、そうだ。みっちゃんを無視したって奴、そいつよ。でも、無視したわけじゃなくて、緊張して喋れなかっただけみたい」
「緊張?どうして?」
「どうしてって、そりゃあ・・・、鏡見て見りゃわかると思うけど」
呆れる汐に、甘露寺はきょとんとした表情で見つめていた。
「あれ?しおちゃん、さっきその子の名前、不死川って言わなかった?」
「え、言ったけど・・・、って不死川ってもしかして!」
汐の頭にある人物の顔が思い浮かび、途端に顔を歪ませた。
思い出したのは、風柱の役職に就く男、不死川実弥。かつて禰豆子を傷つけ、汐に殴られ殺められそうになった相手であった。
それ以来、汐は彼とは犬猿の仲であり、思い出すことさえも嫌がっていた。
「もしかしてあいつ、オコゼ野郎の・・・。言われてみれば、目元がちょっと似ていたかも。でも、あいつと違って、殺意みたいなものは感じなかったけどな」
「多分弟さんだと思う。でも、前に不死川さん、弟なんていないって言ってたのよ。仲悪いのかしら、切ないわね」
そういう甘露寺の"目"には、悲しさと切なさが宿り、それを見た炭治郎も切なそうな顔をした。
「そうなんですか、どうしてだろう」
「私の家は五人姉弟だけど仲良しだからよくわからなくて、不死川兄弟怖って思ったわ~~」
禰豆子をくすぐりながら、甘露寺は朗らかな笑顔で言った。
「そう言えば、もう食事の時間は始まってるのに、玄弥の奴来ないわね」
「どうしたんだろうな。もしかして温泉で逆上せてるとか」
「あんたじゃあるまいし」
炭治郎に汐がすかさず突っ込み、炭治郎は言葉を詰まらせた。