第117章 刀鍛冶の里<肆>
汐が宿舎に戻ると既に食事は始まっており、甘露寺の周りにはどんぶりの山がいくつもできていた。
それを炭治郎は呆然と眺め、禰豆子はちゃぶ台の下に転がって遊んでいた。
「あら、しおちゃん!鉢巻きはあったのね!よかったわ」
食べ終わったどんぶりを置きながら、甘露寺は嬉しそうに笑った。
「ただいま、みっちゃん。あれ?今日はいつもより少ないんじゃない?」
「そうなの。運動した後はもっとお腹が空くんだけれど、今日はのんびりしていたせいかしら」
「そう。でもあんまり食べ過ぎないでよ。って、みっちゃんにはいらん世話か」
そう言って笑う汐と笑い返す甘露寺を見て、炭治郎は二人が本当に仲がいいんだということを知った。
だが、炭治郎は、汐から別な匂いがすることを感知した。
(あれ?でもこの匂い、どこかで)
「汐、誰かと会ってたのか?」
炭治郎が尋ねると、汐は思い出したように言った。
「そうなの!さっき鉢巻きを探しに行ったら、玄弥と会ったのよ。ほら、不死川玄弥。最終選別の時にいた、女の子殴ってあんたに腕折られた奴」
「ああ、あの時の!ここにいたのか。ん?でも何で、汐が名前を知っているんだ?」
「前に用事で悲鳴嶼さんの所に行った時に会ったのよ。今はあの人の弟子なんだって。あたしの鉢巻きを一緒になって探してくれたのよ。目つきは悪いけど、思ったよりもいい奴みたい」
そう言って汐は、鉢巻きを触りながら嬉しそうに笑い、それを見た炭治郎は、胸に奇妙な感覚を感じた。
(あれ?なんだ今の・・・?)
胸の中に靄がかかったような感覚に、炭治郎は思わず胸元を抑えた。
「炭治郎?どうかした?」
「い、いや、何でもない」
何故かその気持ちを汐に知られたくないと思った炭治郎は、慌てたように目を逸らした。