第117章 刀鍛冶の里<肆>
暫くして落ち着きを取り戻した汐は、玄弥の髪形を見て先ほどの事を思い出した。
「もしかして、みっちゃん、あたしの師範を無視したのってあんた?」
「は?師範?」
「ほら、緑と桃色の髪を三つ編みにしてて、凶悪な物ぶら下げてる女の人。会ってない?」
汐の言葉に、玄弥は先ほどの事を思い出したのか顔が瞬時に真っ赤になり、それに気づくも汐は口を開いた。
「やっぱりそうなのね。みっちゃん、あんたに無視されたって言って泣いてたわよ?あんなんでも一応柱だし、無視するのはよくないと思うな」
「ばっ、む、無視したわけじゃねえよ!ただ、その、き、緊張しちまって・・・」
「緊張?あんたが?なんで・・・、あっ!!」
真っ赤な玄弥を見て、汐は瞬時に察した。
「あー・・・、確かにあの人、結構破廉恥な格好してるからなぁ。それに、結構かわいいし」
甘露寺の容姿を思い出し、汐は納得したようにうなずいた。玄弥は、甘露寺のあまりの可憐さに、緊張して喋れなかったのだ。
「あー・・・、その、あの人、そんなに泣いてたのか?」
「うん。鼓膜が破れるかとおもったわ。みっちゃんは一度泣き出すと、何かきっかけがないと泣き止まないし」
「そ、そうか。悪いことしちまったな・・・」
玄弥はバツの悪そうな顔でつぶやくと、意を決したように汐と向き合った。
「あの、その、大海原。その人に伝えてくれねえか?悪かったって・・・」
「は?ふざけんじゃねーよ。男なら自分(てめー)で謝れ」
先程の雰囲気をぶち壊すような汐の冷徹な声に、玄弥の表情が強張った。
「って、こんなことしてる場合じゃなかった。あたし友達待たせてるんだった!ごめん、あたしもう行くね!」
「はっ!?お、おい!ちょっと待て!」
「鉢巻き探してくれてありがとうね!この御礼はいつか必ずするわ!!じゃあね!!」
汐は玄弥に手を振りながら、足早に立ち去っていった。そんな汐の背中を、玄弥は呆然と見つめていた。
そして、自分の意思に反してうるさく鳴り続ける心臓に、戸惑いを覚えるのだった。