第117章 刀鍛冶の里<肆>
汐の鉢巻きを探しながら、玄弥はいつもの自分なら考えられない行動に混乱していた。
自分にはやるべきことがあるため、余計な時間を使っている暇などない。そう思っていたはずなのに、本当に困っているような汐を放っておくことはできなかった。
(ん?)
温泉の裏側に回った玄弥は、岩の隙間に何かが挟まっていることに気づいた。よく見てみれば、それは鮮やかに目を引く真っ赤な鉢巻だった。
「これか!」
玄弥はその鉢巻きを岩の間から外すと、大声で汐を呼んだ。
「おい、大海原!これじゃねえか!?」
汐は玄弥の声を聞きつけると、転がるようにその場所へと走った。そして、彼の手に握られている鉢巻きを見るなり叫んだ。
「あったああああーーーー!!!」
汐は玄弥の手から鉢巻きをひったくると、抱きしめるようにしてしゃがみ込んだ。
「よかった、よかったぁ、あったぁ・・・」
余程嬉しかったのか汐の身体は小刻みに震えており、玄弥は少し安心したように表情を緩めたが、瞬時に険しい顔になり汐を怒鳴りつけた。
「んな大事なもんだったら忘れんじゃねぇよ!あんたのせいで余計な時間を取っちまったじゃねえか!」
玄弥はそう言った瞬間、ハッとして口を押えた。以前、汐と悲鳴嶼邸で再開した時、手ひどい一撃を喰らってしまった事があった。
しかし発してしまった言葉は取り返しがつかず、玄弥は一歩汐から距離を取った。
だが、汐は蹲ったまま玄弥の方を向かずに、呟くように言った。
「そう、そうよね。大事なものなのに忘れるなんて、注意散漫だったわ」
汐はそう言って立ち上がると、玄弥に向かい合って頭を下げた。
「ごめんね、あたしのせいで時間を取らせちゃって。それと、一緒に探してくれてありがとう」
にっこりと笑って顔を上げる汐に、玄弥は面食らい、同時に心臓が大きく音を立てた。