第116章 刀鍛冶の里<参>
「さっき見慣れない男の子がいて、声を掛けたら無視されたの!名前を聞いても教えてくれなかったの―!!せっかく温泉に入ろうと思ってたのに、気分が台無し!!うわーん!!」
とても鬼殺隊最高の称号を持つ者とは思えない言動や行動に、汐は頭が痛くなったが、それを見ていた炭治郎はある事を言った。
「か、甘露寺さん。さっき聞いたのですが、今日の晩御飯は松茸ご飯らしいですよ」
すると甘露寺はたちまち泣き止み、"目"に幸せの光がともった。
「で、みっちゃんを無視したのはどんな奴だったの?」
汐はうんざりしながら聞いてみると、甘露寺は思い出したように口を開いた。
「背がすごく高くてね。私より一尺くらい高かったかしら。それと、変わった髪形をしてたわ。頭の側面が刈ってあって、髪の毛がこう、鶏さんみたいになってて」
「に、鶏って、どんな髪型よそれ」
甘露寺のたとえに汐が吹き出していると、炭治郎はある事に気づいた。
甘露寺を無視した男ではなく、汐の事だ。
「あれ、汐。お前、鉢巻きはどうしたんだ?」
「え?鉢巻き?」
炭治郎の言葉に、汐と甘露寺の視線が汐の額に集中すると、そこにはいつもあるはずの赤い鉢巻がなかった。
「えっ、えええっーー!う、嘘!!もしかしてあたし、置き忘れてきた!?」
あの鉢巻きは、汐の亡き養父玄海の形見であり、汐にとっては命の次の次に大事なものだった。
「あたしさっきの温泉を探してくる!!」
「えっ!?お、おい、汐!!」
炭治郎の制止も聞かず、汐は大慌てで階段を駆け下りていった。