第116章 刀鍛冶の里<参>
そんなことを話していると、汐は先ほどの事を思い出し、おずおずと話し出した。
「あの、さっきウタカタを誤爆しちゃったときに見ちゃったんだけど、あんたの背中にあった傷、あの時のよね?」
汐の言葉に、炭治郎の肩が小さく跳ねた。
汐が炭治郎の背中を見て息をのんだのは、右肩から左下へざっくりと付けられた、痛々しい大きな傷跡を見たからだった。
それは吉原での任務の際、汐を庇って堕姫に背中を斬られたときのものだった。
あの時の感覚を、汐は鮮明に思い出していた。冷たくなる身体、息が凍り付くような感覚、ぞっとするほど温かい炭治郎の命の雫。
「あたしがへまをしなかったら、あんたにそんな傷をつけることもなかった。ごめん、本当にごめんなさい」
汐はこみ上げてくる想いを抑えるように、絞り出すような声で謝った。すると、岩の向こうから炭治郎の声が聞こえてきた。
「どうして汐が謝るんだ?お前は何も悪くないし、この傷はお前を守れた証だと俺は思ってる。それに、謝らなければいけないのは俺の方だ」
炭治郎の言葉に、今度は汐の肩が跳ねた。
「俺、汐の気持ちを考えないで無神経なことをして、お前をまた傷つけた。その事に気づけなくて、善逸に指摘されてやっと気づいたんだ。俺は、俺は本当に大馬鹿者だ。本当にごめん」
汐は呆然と炭治郎がいる方向を見つめた。まさか炭治郎から謝罪の言葉を聞くことになるとは思わなかったからだ。