第116章 刀鍛冶の里<参>
禰豆子が楽しそうに泳ぐ中、岩を挟んで汐と炭治郎は、背中を向けたまま気まずい空気の中佇んでいた。
汐は炭治郎を引き留めてしまった事、炭治郎は汐に殺されるどころか引き止められたことに混乱しつつも、何とかこの空気を変えようと口を開いた。
「「あの!」」
しかしその声は綺麗に重なり、二人は慌ててそっぽを向いた。それから互いに先に話すように促すが、再び堂々巡りになりまた気まずい空気が流れた。
(あれ?なんだか前にもこんなことがあったような・・・)
覚えのある光景に、汐ははっとしたように目を見開いた。汐が甘露寺の継子になる前の事、炭治郎と喧嘩をした後にも同じようなことがあったことを思い出した。
「ふふっ」
「どうした?」
思わず笑みをこぼす汐に、炭治郎は怪訝な顔で岩の方を向いた。
「ううん、前にもあんたと喧嘩したときも、こんなことがあったなって思い出して」
「あ、ああ。そう言えばそんなこともあったな」
「あれからずいぶん経つけど、それ以上にいろいろなことがあったわね。煉獄さんの事とか、吉原の事とか」
「そうだな。本当、いろいろあったな」
二人はそう言いながら、雲に覆われた空を見上げた。
二人はそれからしばらく、離れていた間の事を岩越しに話し合った。汐の方は思わぬ里帰りをしたときに、海の底で懐剣を見つけたこと。刀が刃こぼれしてしまったため、甘露寺と共に直しに来たこと。鉄火場と鋼鐵塚が幼馴染であったこと(さすがに鉄火場が女性であることは伏せた)などを話した。
炭治郎の方も、体力がなかなか戻らなかった事。刀が届かず、鋼鐵塚から代わりに恨み辛みが込められた呪いの手紙をもらった事。
鋼鐵塚と直接話をするためにここに来たことなどを話した。