第116章 刀鍛冶の里<参>
(えっ!?こ、これって、汐の束縛歌!?なんでウタカタが!?)
混乱する炭治郎の背後では、思わぬところでウタカタを放ってしまった汐が、彼以上に混乱していた。
(やばっ、暴発した!えっと、解除するには相手が強い意志を持っていないといけないから・・・)
「た、炭治郎!ウタカタは暗示の一種だから、指先に神経を集中させて、自分の身体が自由になることを強く念じるの!」
汐は立ち上がり、炭治郎の背中に声を掛けたが、彼の背中を見て息をのんだ。
(指先に、神経を・・・)
炭治郎は汐の言う通りに集中し、頭の中で体が動くことを強く思った。すると、固まった身体が急激に動き、危うく顔面を岩の床にぶつけそうになった。
「う、動けた。ありがとう汐・・・」
炭治郎が振り返って礼を言おうとするが、汐の姿はなく、炭治郎は改めて自分の状況を認識した。
「あ、ご、ごめん!今すぐに出るから!禰豆子、行こう!」
「いい!出なくていい!!せっかく来たんだから入っていきなさいよ!」
岩陰から飛んで来る言葉の意味を理解するのに、炭治郎はしばしの時間を要した。もしも自分の解釈が正しければ、このままともに湯あみをしてもいいということになる。
(い、いやいやいや!それは流石に駄目だろう!うん、これはものすごく駄目な気がする!!)
しかし禰豆子は、久しぶりに汐に会えてうれしいのか、それとも温泉が気に入ったのか、湯から出ようとしなかった。
「な、何してんのよ!そんなところに突っ立ってないで入れば?禰豆子だって待ってるのよ」
「え?い、いやでも・・・」
「つべこべ言わずに入れって言ってんだろーが!!」
「はい!!!」
汐の大声に炭治郎は思わず返事をし、被り湯をした後おずおずと湯に足を付けた。