第116章 刀鍛冶の里<参>
「「あ」」
二人は間抜けな声を同時にあげ、禰豆子は嬉しそうに汐の元へと飛び込んだ。
炭治郎の顔が真っ青になったその瞬間、彼の脳裏には、これまで歩んできた全ての思い出がガラス細工の様に蘇った。
楽しそうに笑う家族、これまで出会ってきた仲間たち、救えた命、救えなかった命の数々が・・・。
だが、それは一瞬のうちに掻き消え、炭治郎の頭の中に浮かぶのは、"死"という真っ赤な一文字。
それを悟った瞬間、炭治郎の両目から涙があふれ出した。
(禰豆子、善逸、伊之助、皆・・・、ごめん・・・!俺、もうダメかもしれない・・・!)
先日、自分のせいとはいえ、いろいろな意味で再起不能にされかかったことは記憶に新しく、それも踏まえて炭治郎は本気で死を覚悟した。
首をへし折られる自分、湯が真っ赤に染まった温泉に臀部だけ出して沈む自分、とても見せられる状態ではない姿にされた自分が思い浮かぶが・・・。
「っ!!!」
汐が小さく悲鳴を上げ、炭治郎に背を向けた瞬間、炭治郎の意識が急激に戻って来た。
「うわあああ!!ご、ごめん!!温泉の匂いでわからなくって・・・、って違う!ね、禰豆子!!出よう!今すぐに温泉を出るんだ!!」
炭治郎は上ずった声でそう叫ぶと、慌てて禰豆子の手を掴みその場から立ち去ろうとした、その時だった。
「待って!!!」
汐の鋭い声が聞こえた瞬間、ピシリという空気が張り詰める音と共に、炭治郎の身体が突然動かなくなった。