第115章 刀鍛冶の里<弐>
「あたしは今まで、あんたが打った刀で戦って、今日まで生き残ってこれた。誰が何と言おうと、これだけは事実。だからあたしは、あんた以外に刀を打ってほしくない。同じ女として頑張っているあんたに、刀を打ってもらいたい。あんたが何を思っていようが、あたしには何の関係もないことだから」
汐は思いのたけを全て鉄火場にぶつけると、そのまま戸へと向かった。
「今日は帰るわ。勝手にお邪魔しちゃってあんなこと言うのもあれだけど、これは嘘偽りない、今のあたしの本当の気持ちよ」
汐はそれだけを言うと工房を後にし、残された鉄火場はしばらく呆然としていたが、大きく深呼吸をした。
(誰かに言われるまで気づかない、私の一番の悪い癖だ。私はずっと忘れていた。私が刀鍛冶の道を歩むと決めた、本当の決意を)
――人を守るための、刀を打ちたい。
「すみません、師匠、汐殿、蛍。私は・・・私は・・・」
鉄火場はもう一度大きく深呼吸をすると、意を決したように外へと出るのだった。