第115章 刀鍛冶の里<弐>
「は、はあ!?私が、鋼鐵塚を、好き!?そ、そんなことあるわけないじゃないですか!!」
「いや、だって今の話を聞く限り、好きな人がいなくなってやる気が出ませんっていう風にしか感じなかったけど」
「ありえません!だって、だって私はあいつに・・・でも、その、あれ?」
鉄火場は必死に否定の言葉を探すが、言葉の代わりに彼女の耳がこれ以上ない程真っ赤になった。
それを見た汐は、図星だと気づくと同時に、彼女もかなり変わり者だということを察知した。
「た、例えそうだとしても、そのような世迷言に現を抜かしている時点で、私は刀鍛冶として失格です。職人に私情は必要ない。それすら今の今まで気づかなかった時点でならなかったことなのです。大変申し訳ないのですが、私はもう刀鍛冶として槌を取るわけには・・・」
「・・・ふざけんじゃねーわよ」
鉄火場の言葉を遮り、汐はそう言って立ち上がった。
「さっきから聞いてりゃ、自分は刀鍛冶師失格だとか、才能がないだとか、そんなことばっかり。あんたが刀鍛冶師失格だって誰が言ったの?里長さんや里の人、鋼鐵塚さんが一言でもそんなこと言ってたの!?全部あんたが勝手に思い込んで、勝手に落ち込んでるだけじゃない。目の前の事も見えない職人なんて、ちゃんちゃらおかしいわ」
汐は目を剥きながら、機関銃のように言葉を鉄火場にぶつけた。