第115章 刀鍛冶の里<弐>
鉄火場の工房から帰った後、汐は甘露寺から何処へ行っていたのかと頬を膨らませながら問い詰められた。
汐は鉄火場の事を話そうかと思ったが、むやみやたらに話すべき内容ではないと思ったのと、どっと疲れてしまった事もあり、曖昧な返事をして、だいぶ時間は経っていたが昼餉を食べに向かった。
昼餉の後、汐は疲れを癒すために一人露天風呂に浸かっていた。
木々に囲まれた、自然に満ちた温泉だ。甘露寺は一緒に入りたがったのだが、里長の使いの者に呼ばれて行ってしまったのだった。
(は~あ。勢いであんなこと言っちゃったけど、人の心なんてそう簡単に変わるはずないし、あたし無神経だったな)
鉄火場を励ますつもりが逆に叱りつけてしまい、ますます落ち込ませてしまったかもしれないと汐は思った。
この数時間でいろいろなことが置きすぎて、汐は混乱する頭を落ち着かせようと曇った空を見上げた。
鉄火場焔が女性であったこと。自分と同じ、捨て子で養父に育てられたこと。泣き虫な性格と、色眼鏡で見られて苦しんでいた事。そして、鋼鐵塚との思わぬ関係などを、汐は考えていた。
(でも、あたしは鉄火場さん以外に刀を打ってほしくない。何故かはわからないけれど、あの人じゃなきゃ駄目だって思えてしょうがない。これだけは、何があっても絶対に変わらないわ)
そう思っていた時、ふと、汐は一つのあることを思い出した。
(そう言えば、鉄火場さんの師匠っておやっさんの刀を打った人だったよね。もしかしてあたしが鉄火場さんに刀を打ってもらいたいのって、それもあるのかな?あーっ、どうせならそのことも言っておけばよかった!あたしってつくづく、間が悪いわ)
汐は頭を抱えながら、もやもやした行き場のない気持ちをどうしようかと思っていた時、背後で人の気配がした。
汐は甘露寺が戻って来たと思い、振り返った瞬間。
汐の身体は再び石のように固まった。
そこにいたのは、湯煙に赤みがかかった髪を靡かせ、下半身に手ぬぐいを巻いた見覚えのありすぎる少年。
――竈門炭治郎だった。
「「あ」」
二人が同時に間抜けな声を上げる中、禰豆子は一人嬉しそうに汐の元へ飛び込んでくるのだった。