第115章 刀鍛冶の里<弐>
『それ、お前が打ったのか?』
『え?う、うん』
『全然だめだな。厚さも刃紋もバラバラ。てんでなってねえ。いくら俺でも、それぐらいはわかる。まず火加減自体がおかしいんだ』
少年は鉄火場の作品を悉く貶すが、鉄火場はあることに気が付いた。
自分の何処が駄目なのか、何が悪いのかを、彼は指摘しているように思えた。
実際に彼の言う通りにやってみると、驚くほど品質が向上したのだ。
それから鉄火場は彼の所に時々訪れ、自分の打ったものを見せたり、逆に彼が鉄火場の元へ自分の作った物を自慢しに来たりと、はたから見れば奇妙な間柄になっていた。
少年の性格は破綻しているものの、刀鍛冶師としての埃と腕前に、鉄火場はあこがれを抱き、それがいつしか彼に負けたくないと思うようになった。
その結果、鉄火場は刀鍛冶師として成長することができたのだった。
その少年の名は、鋼鐵塚蛍と言った。
「ですから、今の私があるのはほた・・・鋼鐵塚のお陰なんです。もっとも、あの性格は目に余りますが、奴がいなくなったと聞いたとたん、私の気持ちは嘘のように沈んでいきました。それで気づいたのです。私は、鋼鐵塚がいなければ刀をまともに打つことすらできない、腰抜けだと」
鉄火場はそう言って膝の上で握りこぶしを作り、身体を震わせた。汐は何も言うことができず、ただ彼女を見つめるだけだった。
「このような刀鍛冶師の風上にも置けない人間が、人を、貴女を守る刀など打てるはずがない。だから、大変申し訳ないのですが・・・」
「ねえ、話の腰を折る様で悪いんだけどさ。鉄火場さんってもしかして、鋼鐵塚さんの事が好きなの?」
汐のとんでもない爆弾発言に、鉄火場は飛び上がってひっくり返ってしまった。