第115章 刀鍛冶の里<弐>
鉄火場焔がこの里へ来たのは、生まれて間もない頃。生まれつき左半身に麻痺があり、心無い両親によってこの里に捨てられ、それを里長である鉄珍に拾われた。
彼女は普通の赤子よりもよく泣いたが、炎を見せると途端に泣き止んだため、【焔】と名を着けられた。
結局麻痺は数か月後に治り、彼女は妻を早くに亡くした鍛冶師、鉄火場仁鉄の養女として引き取られた。
それから鉄火場は、人を守るために刀を打つ養父にあこがれを抱き、自分も同じく誰かを守る刀を打つために刀鍛冶の道へと入った。
「しかし、その道は想像以上に苛酷な物でした。私の泣き虫な性格が災いし、周りの者は私が泣くせいで作った物はすぐに錆びて使えなくなると、何度も罵声を浴びせました。しかも、鍛冶師は男の仕事だということが根強く、女である私がその道に進むこと自体が異質だったのでしょう。いつしか私は、自分の性別を偽りながら、修行に明け暮れました」
鉄火場は驚いて固まる汐を見据えながら、そう言った。
「でもそんな状態でうまくいくはずもなく、私はやはり自分には才能など無いのだと諦めを抱き始めていた、その時でした」
まだ幼い鉄火場が、修行の厳しさに家の外で涙を流していた時。彼女の前に一人の見知らぬ少年が現れた。
ひょっとこの面をつけた、12歳ほどの少年だった。
『うるせえよ、ピーピーと。作業の邪魔をするんじゃねえ』
少年はぶっきらぼうにそう言うと、鉄火場が打ったであろう小さな小刀を見て言った。