第115章 刀鍛冶の里<弐>
汐が落ち着きを取り戻した後、鉄火場は自分の工房へと案内した。
「粗茶で御座います」
「あ、はい。どうも」
二人はぎこちなく挨拶をかわすと、汐はおずおずと口を開いた。
「驚いたわ。まさか鉄火場さんが女の人だったなんて。声も男の人にしてはちょっとだけ高いなって思ったけれど・・・」
「私もまさか、汐殿がこの里に来ているとは思ってもみませんでした」
二人はそう言ってしばし黙り込み、汐もなんとか雰囲気を変えようと口を開こうとしたときだった。
「汐殿はどうしてここへ?」
「え?あ、えっと。鉄火場さんが落ち込んでるって里長さんから聞いて、鉄火場さんが打たない場合は他の人が刀を打つって言われて、でも、あたしは鉄火場さんに刀を打ってほしくて、それで・・・」
汐は、まだ衝撃が抜けきってないせいかしどろもどろになりながら答えると、鉄火場は俯きながら答えた。。
「ご心配をおかけしてすみません。ですが、残念ながらあなたの期待に応えることは難しいでしょう。今の私は刀鍛冶として失格な人間ですから・・・」
「鋼鐵塚さんがいないから?」
汐が鋼鐵塚の名を出すと、鉄火場は驚いたように顔を上げて汐を見た。
「長から聞いていましたか。恥ずかしながら、その通りです。自分がどれほど浅はかで稚拙な人間かがわかってしまい、とても鍛冶師としてやっていけるかどうか・・・」
「鋼鐵塚さんとは幼馴染だって聞いたけれど、それと何か関係が?」
汐の言葉に、鉄火場は言葉を切って小さくうなずいた。
「少し長くなりますが、聞いていただけますか?」
そう言って鉄火場は、徐に口を開いた。