第115章 刀鍛冶の里<弐>
女性は着替えた後、髪を整え傍にあった面を取り、その面を見た瞬間、汐の身体は石のように固まった。彼女が手にした面に見覚えがあったからだ。
(え・・・?あのお面、見覚えがある。いや、見覚えってどころじゃない。だってあれは、あのお面は・・・)
汐が知る限り、その面をつけた刀鍛冶は一人しかいない。その持ち主の名は、鉄火場焔。
何故その女性が鉄火場の面を持っているということを汐は理解できなかった。
汐は見てはいけないものを見てしまった気持ちになり、この場から立ち去ろうとしたその時だった。
つくづく運が悪いのか、汐は足元の石に躓き、転びはしなかったものの物音を立ててしまった。
その音は、前にいたその人物の耳にも届いた。
「誰だ!?」
その人物が発した声は、汐もいやというほど聞き覚えがあった。その声で、汐の目の前で泣かれた記憶が一気によみがえった。
「え・・・え?」
汐の青い瞳と、彼女の漆黒の瞳がぶつかり、しばしの間時が止まった。
「は・・・?う、汐・・・殿?」
困惑のあまり上ずった声を上げる鉄火場に、汐は顔を歪ませながら大声で叫んだ。
「鉄火場さんって女だったのぉぉぉおおおーーーーー!?」
そのあまりの大声に、木に止まっていた鳥たちは慌てて飛び立ち、鉄火場は慌てて汐の口を塞いだ。
「こ、声が大きいです!!」
口を塞がれ更に困惑する汐を、鉄火場は必死でなだめるのだった。