第115章 刀鍛冶の里<弐>
そこには、粗末だがそこそこの大きさのある建物があった。
汐はすぐに戸の前に立つと、手の甲で数回叩いた。
「こんにちは~。鉄火場さん、いる?」
汐はそう声を掛けて少し待つが、戸の向こうからは何の音も声も聞こえなかった。
もう一度声を掛けてみるが結果は同じで、汐はがっくりと肩を落とした。
(まあ、そう簡単に会えるわけないとは思ってたけど、あたしって本当にこういう時の間が悪いのよね)
汐はため息をついて出直そうとしたとき、どこからか硫黄の匂いが漂い、水音が聞こえてきた。
(この辺にも温泉があるみたいね。せっかくだし、ちょっとだけ見て行こうかな)
汐はそのまま、光の差す林へ向かって足を進めた。
数分歩いた後、ふと人の気配を感じて汐は足を止めた。数十尺先からは温泉があるのか湯煙が上がり、そのそばに見知らぬ人影があった。
黒檀のような黒髪に、頬に大きな傷があった。胸にさらしを巻いていることから、女性であることがうかがえた。
(誰かしら、あの人。ここに住んでいるんだから、きっと里の関係者なのは間違いないわね)
汐はその女性に鉄火場の事を聞いてみようと、近づこうとしたその時だった。