第114章 刀鍛冶の里<壱>
「うわぁ、凄い景色よしおちゃん!こっちに来て一緒に見ましょうよ!」
硫黄の匂いと湯煙に包まれる中、一糸まとわぬ姿の甘露寺は興奮したように遠くを指さした。秋の気配が近いのか、木の葉の紅葉が所々で始まっていた。
汐は子供の様にはしゃぐ甘露寺に少し引きつつも、体の芯まで温まる温泉を堪能していた。
この温泉は怪我や病気にはもちろん、性格の歪みや思いやりの欠如、将又恋の病にまで効くというから驚きだ。
(最も後者は到底信じがたいものだが)
「それにしてもみっちゃん、相変わらず凶悪な物持ってるわねぇ」
甘露寺の胸元にぶら下がるそれに目を向けながら、汐は少しだけ呆れたように言えば、甘露寺は顔を赤らめながら慌ててそれを隠した。
(いや今更隠されても、隊服から結構見えてるし。あんなものひけらかしてたら、世の中の助平男共はありの様に集ってくるんじゃないかしら)
そんなことを考えていた汐だが、ふと、ある疑問が浮かんだため、思い切って聞いてみた。
「ねえみっちゃん。みっちゃんはなんで鬼殺隊に入ったの?あんたに弟子入りしてからずいぶん経つけど、その理由をまだ聞いてなかったと思って」
汐の唐突な質問に甘露寺は顔を赤らめ、もじもじと恥ずかしそうに身をよじった。その"目"からは恥じらいの感情が見え、汐は大きな違和感を感じた。
「そ、そうね。しおちゃんにはきちんと話しておかないといけなかったわね。ああでも、どうしよう!恥ずかしいわ~」
「鬼殺隊に入る恥ずかしい理由って何なの?」
汐がたまらず問いただすと、甘露寺は「あんまり言いふらさないでね」というと、先ほどよりも顔を赤くして叫んだ。