第114章 刀鍛冶の里<壱>
「さて、二人の刀は前もって預からせてもろたけど、蜜璃ちゃんはともかく、青い子、汐ちゃんやったかな?焔なんやけど、実は今かなり落ち込んでいて、仕事どころじゃないんよ」
「落ち込んでる?まさか、あたしが刀を壊しちゃったせい?」
汐は以前にも刀を破損し、鉄火場にものすごく泣かれたことがあったため、そのせいではないかと思い顔を青ざめさせた。
しかし、鉄珍は首を横に振って続けた。
「ああ、汐ちゃんのせいちゃうよ。実はここ最近、蛍が行方不明になってな。そのせいで焔も仕事に身が入らんようになってしもた」
「蛍?」
聞き覚えのない名前に汐が首をひねると、鉄珍は言った。
「鋼鐵塚蛍。汐ちゃんも知っとるやろ?あれの名付け親、ワシなの」
思わぬ名前を出されて汐は固まり、新たな情報が増えすぎたせいか少しだけ混乱し始めた。
「でも何で鋼鐵塚さんがいなくなって、鉄火場さんが落ち込んでるの?あたしが知る限り、あの二人あんまり仲良しには見えなかったけど」
「あの二人な、小さい時から一緒にいろんなことを競い合ってた幼馴染なんや。蛍はようわからんが、焔は蛍に負けとうないっていつもいつも泣いとったんや。その競争相手がいなくなって、やる気が出なくなったんやろ」
鉄珍の口から出た思わぬ言葉に、汐は驚いた表情をした。
「さっきの続きやけど、蛍の方はワシ等も探しとるし、焔の方もなんとか説得しとるから堪忍してや。蛍は癇癪を起し、焔はすぐに泣きよる。二人共小さい頃からあんなふうや」
そう言う鉄珍は、困ったように溜息をついた。
「ううん、違うわ。きっとあたしが刀を折ったり刃こぼれさせたりするのがいけないの・・・」
「いや、違う」
――折れるような鈍を作ったあの子が悪いのや
鉄珍は汐の言葉を遮り、きっぱりと言い放った。その並々ならぬ気迫に、汐は言葉を飲み込み身体を震わせた。