第114章 刀鍛冶の里<壱>
「そっちの青い子は緊張しているみたいやけど、取って食ったりせえへんから安心したってや。あ、そうや。せっかくやし、かりんとうをあげよう」
鉄珍はそう言って、甘露寺と汐の前にかりんとうを差し出した。
甘露寺は顔を輝かせるが、汐は少し顔を引き攣らせてかりんとうを見つめていた。
「ん?お嬢ちゃん、ひょっとして甘いもん苦手?」
「え、ええ。まあ」
「さよか。でもな、そのかりんとう、普通のかりんとうとちょっとちゃうんや。甘いもんが嫌いな焔が、唯一食べることができるかりんとうなんやで」
「焔って、鉄火場さんの事?」
汐は鉄火場も自分と同じ、甘いものが苦手であることを初めて知り目を見開いた。
鉄珍はお面で隠れているため"目"を見ることはできないが、少なくとも嘘をついているようには思えず、汐は恐る恐るかりんとうに手を伸ばすと、意を決して口に入れた。
「あ、あれ?」
口の中に入れた瞬間、確かに甘いがとても食べやすく、後に残る味ではなかった。
汐は生まれて初めて、甘いものを美味しいと感じた。
「何これ、おいしい!甘いのに食べやすい!」
「し、しおちゃん!はしたないわよ!」
汐は思わず大声を上げてしまい、甘露寺に諫められると顔を真っ赤にしてうつむいた。
「も、申し訳ございません!私の弟子が失礼なことを・・・!」
「ええよええよ。子供は元気が一番。それな、砂糖やのうて、蜂蜜つこてるの。初めてそれを食べた焔も、おんなじ反応しとってな。かわいい子やったわ~」
鉄珍は何かを思い出すかのように遠くを見るような仕草をしたが、お付きの者に促されて二人の方を向いた。