第114章 刀鍛冶の里<壱>
「それでは、こちらでお待ちください」
ひょっとこの面をつけた者たちに通された部屋で、汐と甘露寺は正座をしながら里長を待っていた。
ここにたどり着くまでの間に、汐は甘露寺から少しだけ里長のことを聞かされていた。
里長の名は|鉄地河原鉄珍(てっちかわはらてっちん)といい、何とも舌を噛みそうな名だが、この刀鍛冶の里を納める立派な人物だという。
更に、甘露寺としのぶの日輪刀は彼が打ったものだということに、汐は少なからず驚いた。
「大変お待たせいたしました」
二人のお付きの者に連れられてやってきたのは、長めの口のひょっとこのお面をつけた、汐の半分くらいの身長の小柄な老人だった。
汐はもっと逞しい男を想像していたのだが、それとは似ても似つかわしくない外見に思わず息をのんだ。
(い、いや、人は見かけによらないわ。善逸だって普段はあんなにみっともないけれど、いざという時は別人みたいになるし)
汐は心の中で首を振りながら、そっと座った里長、鉄珍を見据えた。
刹那の沈黙が辺りを満たした時、先に口を開いたのは鉄珍だった。
「どうもコンニチワ。ワシ、この里の長の鉄地河原鉄珍、よろぴく」
彼の口から飛び出したのは、あまりにも軽い口調の言葉。それに汐は面食らい、思わず息をのんだ。
「は、はあ、どうも、大海原汐です・・・」
「お久しぶりです、鉄珍様。本日よりお世話になりますので、どうぞよろしくお願いいたします」
汐のぎこちない挨拶に対して、甘露寺は深々と頭を下げ、そんな二人を見て鉄珍は、嬉しそうにうなずいた。
「うんうん、可愛い娘が二人、ワシ今、とっても幸せ。やっぱり若い娘と話すのはええもんやな」
鉄珍の雰囲気に、汐は玄海と似たような気配を感じて思わず固まった。が、汐は彼の言葉に違和感を感じ、顔を上げた。
(あれ?今この人娘が二人って言った?ってことはこの人、あたしを女だって見抜いている。つまり、ワダツミの子の特性が効かない人間なんだわ)
汐の特性が効かない人間は多くはなく、そのほとんどが並々ならぬ実力者ばかりであり、汐は思わず身体を震わせた。