第15章 幕間その弐
いきなりそんなことを言い出す彼に、二人の目が点になる。思い出があふれだしてきたのか、鱗滝の口から流れるように言葉が飛び出す。
「週の殆どを遊郭通いに費やし、大事な会議には遅刻。上官には無礼な態度。酔って日輪刀を売ろうとしたこともあった!さらにひと月分の給金をあっという間に使い切り、飯代すらなく儂から何度金を集ったことか・・・!」
思い出すだけで腹立たしいというかのように、鱗滝の拳が震える。炭治郎も彼から怒りとあきれの匂いを感じ取り、それが真実であることを悟る。
炭治郎の中で自分が想像していた大海原玄海の像が、木端微塵に砕け散る。自分がこうなのだから、当事者である汐はどんな気持ちだろう。
そんな思いで隣の彼女に目を向けると、その体はわなわなと震え、拳を固く握りしめていた。
「そんな・・・そんな・・・おやっさん・・・」
無理もないだろう。自分が敬愛していた師が、そんなろくでもない男だったと聞いて、動揺しないはずがない。と、炭治郎は思っていた。
汐の次の言葉を聞くまでは
「そのころからクズだったのかよ!!!あの好色ジジィ!!」
汐の大声に、炭治郎はびくりと体全体を震わせる。震えていたのは動揺していたからではなく、ただ怒っていただけだ。
「口を開けば女の話ばかり!村人にどれだけ借金してたかわかりゃしないし!あたしが今までどれだけ苦労したか!!若いころは名のある剣士だったって聞いて、しかもすごい鬼狩りだったって聞いて期待してたのに!!結局何にも変わってねーじゃねーかァァ!!!」
「お、落ち着け汐!殺意!殺意引っ込めて!!」
あまりの怒りに暴れだす汐を、炭治郎は必死に押さえつける。瞬時に混沌と化した空気を一掃するように、鱗滝は大きく咳払いをした。