第113章 幕間その陸:故郷へ(後編)
「うわあああんん!!!しおちゃんの馬鹿ァ!!心配したんだから!!」
「・・・ごめん」
甘露寺は汐を抱きしめながら、大声でまくし立て、汐は疲労で動くこともできずぼんやりと身体を預けながら、謝罪の言葉を口にした。
やがて甘露寺が落ち着き、汐の疲労もある程度回復してきた頃。
汐は海の底で見つけたものを、甘露寺の前に差し出した。
フジツボ塗れのそれに、甘露寺は眉をひそめて怪訝な顔をし、汐は持ってきた小刀でフジツボを削り落としていった。
そして全貌が明らかになったそれに、二人はくぎ付けになった。
「これって・・・、懐剣?」
汐が海の底で見つけてきたのは、五寸ほどの大きさの懐剣だった。だが、海底に落ちていたせいで当然刀身はさび付き、とても使えるような代物ではなかった。
「あれだけ苦労したのに、結果が使えない懐剣なんてあんまりじゃないのよぉ!!」
汐は怒りのあまり暴れ出し、甘露寺はそれを慌てて抑えた。
「落ち着いてしおちゃん。確かに錆びてて使うことはできないかもしれないけれど、これってひょっとしたらかなりの値打ちものかもしれないわよ」
「値打ちもの?」
「ええ。それに、例えそうじゃなくても、しおちゃんの故郷で手に入れたものだもの。しおちゃんにとっては、十分価値のあるもののはずよ」
「何だかうまく丸め込まれているような気がしなくもないけど・・・」
汐は少し複雑な気持ちで、錆びついた懐剣を見つめた。確かに甘露寺の言う通り、金銭的な値打ちはないかもしれないが、汐にとって故郷の思い出を忘れないようにするための楔のようなものだと思えば、悪くないのかもしれないと思った。