第113章 幕間その陸:故郷へ(後編)
一方。海上で汐を待つ甘露寺は、落ち着かない様子で岩場をうろうろとしていた。
(どうしよう、どうしよう。しおちゃんが潜ってから、もう何十分もたってるわ。いくら全集中の呼吸で身体能力が上がっても、呼吸ができない水の中じゃ、命の危険も高まってしまう・・・。ああ、やっぱり止めればよかった!無理を言っても、力づくでも止めればよかった!!)
しかしすでに汐は海の中であり、甘露寺は今にも泣きだしそうな顔で海の中へ伸びている縄を見つめていた、その時だった。
縄がぴくぴくと動き、明らかに反応を見せていた。甘露寺は慌てて縄を掴もうとして、はっとしたように目を見開いた。
(もしも縄が反応しても、一気に引いたりはしないで。急激に浮上すると、あたしの肺が破裂する可能性があるから。引くときはあたしが合図したらでお願い)
汐の言葉を思い出し、甘露寺は焦る気持ちを抑えながらも、縄をそっとつかんだ。汐がいつ合図を出しても、すぐに引き上げることができるように。
それから数分後。縄が突然ニ三度、海の中へ沈むようにして動いた。甘露寺はすぐさま縄を掴むと、力を加減しながら引っ張った。
やがて海の中から黒い影が現れたかと思うと、水面を貫く様にして汐の青い髪が姿を現した。
「しおちゃん!!」
甘露寺はすぐさま汐に手を伸ばすと、力を込めて引き上げた。汐は岩場の上に打ち上げられると、何度か咳き込み息をついた。
(な、何とか戻ってこられたわ・・・)
汐が回らない頭でそう考えていた時、後ろから猛烈な泣き声が聞こえてきた。