第112章 幕間その陸:故郷へ(中編)
波が打ち寄せる優しい音が耳をくすぐり、遠くではうみねこの鳴く声がする中。
『汐にいちゃーん!』
何処からか子供の声が聞こえ、振り返れば二人の少年が汐に向かって手を振っていた。
兄ちゃんと呼ばれたことに憤慨しつつも、汐は何か用かと尋ねた。
『なあなあ、鯨岩の入り江に宝探しに行こうぜ』
「宝探し?」
『うん!海の底に、ものすごい宝物があるって、昔じいちゃんに聞いたんだよ!!だから行こうよ、宝探し!』
少年達の言葉に、汐は首を横に振った。
「宝物ねぇ。その話は知ってるけど、あたしには無理だよ」
『え?なんでさ!姉ちゃんすごく長く潜れるじゃないか!』
「あそこはとんでもなく深いんだ。あたしも一回潜ってみたけど、深すぎて息が続かなかった。だから無理。潜るなら深海魚にでもなるしかないね」
汐がそう言うと、少年たちは首を横に振ってこたえた。
『大丈夫だよ、今の姉ちゃんなら、きっと潜れるよ』
「えっ?」
『全集中の呼吸が使える今なら、きっとできるよ!』
「あんたたち、なんでその言葉を・・・!!」
汐が問いかけようと口を開いたその時、突然大きな波が、瞬く間に汐達を飲み込み、押し流していった。
汐はもがきながら、必死で腕を伸ばした。