第112章 幕間その陸:故郷へ(中編)
「・・・ちゃん、しおちゃん・・・!しおちゃん!!」
汐は耳元で名前を呼ばれ、はっと目を覚ました。木目調の天井に、傍らには焦った表情をした甘露寺の姿があった。
「よかった、気が付いたのね!酷くうなされていたから、心配したのよ!」
甘露寺はそう言って、汐を固く抱きしめた。
彼女の豊満な胸が汐の顔を包み締め付け、汐は息ができず藻掻いた。
「あれ、あたし一体どうしてここに?鬼を倒した後から記憶がないんだけど・・・」
「あの後、しおちゃんは突然倒れてしまったのよ。それで私が、藤の花の家まで運んできたの」
本当にびっくりしたのよ!と、甘露寺は顔を崩しながら言った。
「あの後の始末は、隠の人達がやってくれるから、私達の仕事は終わったのよ」
甘露寺は汐を安心させようと、柔らかな声色でそう伝えた。
だが、鬼は退治されても、汐の故郷の村が呪われた村だという噂は、すぐには消えないだろう。
汐がそれを思いつつ唇をかみしめた時、ふと、先ほど見ていた夢の事を思い出した。
「ねえ、みっちゃん。屋敷に戻る前に、ちょっと行きたい場所があるんだけど」
汐の突然の提案に、甘露寺は目を見開いて汐を見つめた。
「思い出したことがあるの。あたしがまだ、村にいたころの記憶。お願い、もう一度行って欲しいの。鯨岩の入り江に」
汐の真剣そのものの表情に、甘露寺は黙ってうなずくことしかできないのだった。