第111章 幕間その陸:故郷へ(前編)
汐はあちこちを見回しながら、あの時の出来事を思い出していた。玄海の病が治ると信じて、疑わなかったあの頃を。
だが今は、そんな干渉に浸っている余裕はない。そう自分に言い聞かせながら、汐は足を進めた。
「あっ、しおちゃん、みて!」
突然甘露寺が声を上げ、ある方向を指さした。そこには、人目を避けるようにして作業をする、漁師のような姿の男が一人いた。
「あの人に話を聞いてみましょう!」
甘露寺はそう言って、汐を連れて男に近寄った。
「あの、すみません!ちょっとお聞きしたいことが・・・」
甘露寺が声を掛けると、男は悲鳴を上げて肩を大きく震わせると、そのまま猫の様に蹲った。
「きゃっ、ご、ごめんなさい!脅かすつもりはなかったの!」
甘露寺が慌ててそう言うと、男は少しだけ顔を上げながら、二人を恐る恐る見上げた。
「あ、あんたらは、あの【呪われた村】の化け物じゃないのか?」
「「呪われた村?」」
二人が声をそろえて言うと、男は二人をまじまじと見て、ほっと息をついた。
「化け物っていうのは鬼の事かしら?だったら心配いらないわ。あいつらは陽の光に弱いから、昼間には絶対に出てこないはずよ」
「先ほどおっしゃっていた【呪われた村】というのは、何ですか?この港町に、一体何が?」
甘露寺が優しい声色でそう聞くと、男は矢継ぎ早に話し始めた。
「この港町は、漁だけでなく、周りの漁村から売られてくるもので成り立っていたんだ。だけど、化け物のせいで、まともに漁にも出られなくなってしまった。それもこれも、全部あの村のせいだ」
「呪われた村の事、ですか?」
「ああそうだ!何年か前に災害だか何だかで、一つの村が滅んだ。それ以来、このあたりに化け物が出るようになったんだ。あの村が滅んだせいで、こっちにもとばっちりが・・・!」
男がそこまで言いかけた瞬間、汐は男の胸ぐらを乱暴に掴み、顔を近づけた。