第111章 幕間その陸:故郷へ(前編)
翌日。二人は荷物をそのままに、現場近くにある港町を目指して歩きだした。
街に近づくにつれ、潮の香りが漂い始め、周りの景色が見覚えのあるものに変わってきていた。
(やっぱり、あの港町だ。おやっさんの薬を、珠世さんから受け取った時の、あの・・・)
そのせいか、汐の顔つきがだんだん険しいものになっていき、それを見た甘露寺は、そっと汐の手を握った。
「大丈夫?辛いなら、私に任せてあなたは藤の花の家で休んでいてもいいのよ?」
「ありがとう、みっちゃん。でも、辛いなんて言ってられないわ。ここはあたしの故郷だもの。そこを好き勝手にしている馬鹿どもを、のさばらせてなんか置けない」
汐は凛とした声でそう言い、それを聞いた甘露寺の胸が音を立てた。
汐達が訪れた港町は、建物などは変わっていないが、人の気配が全くしなかった。
あちこちの建物の窓は塞がれ、道には割れた瓶や腐った食べ物が落ちていた。
聞こえるのは、波が打ち寄せる音だけだ。
(信じられない。これがあの港町なの・・・?)
汐は呆然と街の様子を眺めていたが、すぐに気持ちを切り替えて、情報を集めることにした。
まずは人を探さねばと、甘露寺と二人で街を歩きだした。