第111章 幕間その陸:故郷へ(前編)
「さっきから黙って聞いてりゃ、呪われただの、村のせいだの好き勝手ばっかり言いやがって!あんたにあの村の何がわかんのよ!!」
汐は顔中に青筋を浮かべながら、怖ろしい形相で男に詰め寄った。その顔を見て男は悲鳴を上げ、甘露寺は慌てて汐を男から引き離した。
「ごめんなさい!と、とにかく!その村に鬼が出ることはわかりましたので、これから退治しに行きます。だから、安心してください」
甘露寺は花のような笑顔でそう答えると、男の顔に微かな安堵が浮かんだ。
男が去った後、甘露寺は険しい顔で汐を叱った。
「しおちゃん、気持ちはわかるけど、人を怖がらせては駄目。あなただって小さな子供じゃないんだから、いいことと悪いことの区別はつくはずでしょう?」
「それは、わかってる。でも、でも!あたしの故郷をあんなふうに言われたことが、悔しくて、許せなくて・・・!!」
汐は、湧き上がってくる黒い感情を抑えようと、ぎゅっと拳を握りしめた。
そんな汐の背中を、甘露寺は優しくなでた。
「あなたが故郷を愛する気持ちは本物ね。だからこそ、冷静にならなくちゃ駄目。これ以上鬼達に、あなたの故郷を穢されない為に、自分をしっかり持ちましょう」
甘露寺の言葉に、汐は湧き上がってきた黒い感情が、波の様に引いていくのを感じた。そしてしっかりと彼女の目を見据え、頷くのだった。