第111章 幕間その陸:故郷へ(前編)
「しおちゃん・・・」
あまりの事に、流石の甘露寺もかける言葉が見つからず、その背中を見つめることしかできなかった。
「成程。鬼の事は極力伏せられているから、災害が起きたってことにしてくれたのね。流石はお館様だわ」
そう言う汐の顔は引きつっており、心なしか瞳も揺れていた。
「あたし、鬼殺隊士になってから、一度も村には帰っていなかったの。吹っ切れたかと思ったけれど、やっぱりできてなかったみたい。嫌になっちゃうわ。自分がこんなに弱いなんてさ」
汐の力ない言葉が響き、甘露寺はたまらなくなり、汐を後ろから抱きしめた。
「駄目よ、しおちゃん。そんな風に言うのはやめて。あなたが辛いと、私も辛いの」
甘露寺の身体と声は震えていて、それだけで汐を気遣っているのが嫌でも伝わり、汐の胸も苦しくなった。
「あなたは強くなっているわ。吉原の件だって、誰一人として犠牲者が出なかったんだもの。だからあんまり、一人で抱えたりしないで」
「みっちゃん・・・」
甘露寺の優しさに胸を撃たれる汐だったが、ふと、彼女の呟いた言葉が引っ掛かり、思わず声を上げた。
「ちょっと待って。あんた今、犠牲者が一人も出なかったって言った?」
「え、ええ。言ったけれど・・・」
「本当に!?あんなに街がズタボロになって、あちこち血まみれになってたのに!?」
汐は驚きのあまり、目を剥きだしながら叫んだ。