第110章 幕間その陸:女心と癇癪玉
「あんの、馬鹿が。ボケが。にぶちんが。唐変木が。許さない、絶対に許さない」
目が据わったままの状態で、一心不乱に剣を振る姿を、甘露寺は冷や汗をかきながら眺めていた。
(どうしよう。しおちゃんの記憶が戻って、任務に復帰できるくらいに回復したのはいいことだけれど、ここの所ずっとこの調子。悲鳴嶼さんの話では、思春期の子にはよくある事みたいだから放っておけってことだったけれど・・・)
だとしても、あのような鬼と人間とも区別がつかないような顔を、汐にさせておくのは絶対にいけないと、甘露寺は意を決して汐に話しかけた。
「ね、ねえ、しおちゃん。何があったのかはわからないけれど、いったん休みましょう。まだ怪我が治ったばかりなんだから、無理はいけないわ」
甘露寺がそう言うと、汐は振り上げた木刀を下ろし、天井を見上げながらぽつりとつぶやいた。
「ねえ、みっちゃん。みっちゃんは恋柱なんて言われてるくらいだから、人を好きになったことなんて何回もあるんでしょ?」
「えっ!?」
汐の思わぬ言葉に、甘露寺は飛び上がって驚き、危うく胸が零れ落ちそうになった。
「あたし、やっと気づいたんだ。炭治郎の事が好きだって。仲間としてだけじゃなく、もっともっと特別な意味で。でも、いざ炭治郎と顔を合わせると、胸が苦しくなって言葉が出なくなったり、顔もまともに見れなくなったり、挙句の果てにはいつも以上にぶっ飛ばしちゃったり。今まで、こんなことなんかなかったのに」
汐は小さくため息を吐くと、甘露寺の方に顔を向けた。