第110章 幕間その陸:女心と癇癪玉
「人を好きになるっていうのは、とても素敵なことだって、みっちゃん前に言ってたよね。でも、いざそうなってみると、苦しくて、苛々して、でも、本当はそんなことするつもりなんかなくて、もうわけわかんなくって」
そう言って再びため息を吐く汐を、甘露寺はこれ以上ない程愛しく感じ、顔に熱が籠ると同時に胸が激しく高鳴った。
しかし、甘露寺はそれを抑えるように目を閉じると、そっと口を開いた。
「そうね。人を好きになるということは、とても素敵なことだけれど、その分たくさん悩んだりすることもあるの。でもね、それはとても自然な事なの。その悩みを乗り越えた時、人は成長すると、私は思うわ。そう、鍛錬と同じようにね」
そう言って笑う甘露寺に、汐は目を潤ませながらも(鍛錬とはちょっと違うんじゃないかな)と、心の中で突っ込んだ。
その時だった。
「カァ~カァ~、指令デスヨ~」
汐の鎹鴉、ソラノタユウが間延びした声で鳴きながら、汐の方に止まった。
「西ノ方角デ、鬼ノ被害ガ拡ガッテイルトノコト~。恋柱、甘露寺蜜璃様ト共ニ、ソノ場所ヘ向カッテクダサイネェ~」
鴉が告げた指令に、汐は顔を引き締め、甘露寺は心なしか嬉しそうな顔で汐を見つめるのだった。