第110章 幕間その陸:女心と癇癪玉
ちょっ、ちょっと待ってよ!責任って、ええっ!?だってまだあたしたち、そう言う関係じゃないし、べ、別に嫌じゃないけど・・・、こ、心の準備がまだっ・・・!!)
「汐」
炭治郎は真剣な声色で名前を呼ぶと、汐の両手を優しく握った。
汐の心臓が跳ね上がり、顔に血が上って眩暈さえ起こした。
「は、ははは、はいっ!!」
思わず上ずった声で返事をすると、炭治郎はじっと汐の目を見てから、口を開いた。
「俺が責任を取って――」
「・・・・・っ!!」
「――お前の相手を、見つけてくるから!!!」
炭治郎のよく通る大きな声が響き渡った後、汐の思考は再び一時停止した。
そして、
「・・・・はあっ!?」
あまりにもあんまりな言葉に、汐の高ぶった感情は、一気に急降下した。
「大丈夫だ。汐の顔に傷があっても気にしないような人を、きっと捜すから。あ、でも、俺は汐がどんな人が好みか知らないから、参考までに教えてくれると――」
「炭治郎」
汐は、一人でまくし立てている炭治郎の背中に向かって、冷ややかな声で呼んだ。
炭治郎が振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべている汐がいた。
しかし、炭治郎の鼻は感知していた。汐からにじみ出てくる匂いは、先ほどの果実のようなものではなく、怒りに満ちたものだということに。
「歯ァ、食いしばれ♪」
汐の甘い声が炭治郎の耳を通り抜けた瞬間。
重い音が響き渡り、蝶屋敷中が一瞬揺れた。
「!?」
その揺れは、アオイや三人娘たちも感じ、皆地震でも起こったのかと慌てふためいた。
「み、皆さん大丈夫ですか!?今、地震が起こったみたいで・・・!」
皆の安否を確認するべく、すみは小走りで廊下の曲がり角を曲がった。そこで見たものは、
顔中から涙と鼻水を吹き出し、真っ青を通り越してどす黒い顔で下半身を抑える炭治郎と、顔どころか全身を真っ赤にして、真蛇の形相で廊下を踏み鳴らして歩く、汐の姿だった。
この事が原因なのかは定かではないが、炭治郎の回復は大幅に遅れたという。