第110章 幕間その陸:女心と癇癪玉
「うわあああああああああああ!!!」
突然炭治郎が叫び声をあげ、汐は今度は全身を大きく震わせ、耳を塞いだ。
「い、いきなりなんなのよ!びっくりするじゃない!!」
汐は顔をしかめて言い返すと、炭治郎は真っ青な顔で汐の額を指さしながら言った。
「汐・・・っ、お前っ、その、その傷・・・!」
炭治郎が見たものは、汐の額の右上にあった、抉れたような傷跡だった。
それに気づいた汐は、「ああ、これね」と、何でもないように言った。
「ひょっとしてあの時、吉原で鎌鬼の攻撃を喰らった時・・・?」
炭治郎の脳裏に、血の刃が汐の額を滑る光景が蘇った。
「そうみたいね。でも、これくらいなら鉢巻きで隠せるから、何にも問題はないし、別にあんたが気にする事じゃないわ」
そう言って笑う汐だが、その笑顔はどこかぎこちなく、炭治郎の胸を締め付けた。
(汐が俺に会いに来なかったのは、この傷の事を気にしていたのかもしれない)
炭治郎は悔し気に唇をかみしめると、凛とした表情で汐を見据えた。
「いいや、気にするよ。俺がもう少しちゃんとしていれば、汐に傷をつけることなんてなかったんだ。吉原で働いたとき、女の子の顔に傷をつけるっていう事が、どれほど惨くて酷いことか、身をもって知ったんだ」
「ちょっと、炭治郎?あんまり深く考えなくっても・・・」
何やら妙な空気になってきたことを感じ、汐は慌てて炭治郎を制止させようとした。だが、炭治郎の耳には入らなかった。
「お前がそんな傷を負ってしまったのは、俺のせいだ。だから、俺がその責任を取る!」
「・・・・・え?」
炭治郎がそう言った瞬間、汐の思考は一瞬停止し、それから。
「えええーーーーっ!!??」
途端に汐の顔が、これ以上ない程真っ赤になり、頭から湯気まで吹き出した。