第109章 幕間その陸:煉獄邸再び
「素晴らしい歌だった。本当にありがとう」
汐が歌い終わった後、槇寿郎は涙を拭きながら汐に心から礼を言った。千寿郎も、鼻を啜りながら汐に深々と頭を下げた。
「いいわよ、お礼なんて。あたしは、あたしにできることをしただけ。煉獄杏寿郎さんに救われた命で、やるべきことをしただけよ」
汐も微かに赤くなった目で、そう言って笑い、そんな姿を見た槇寿郎は、汐の心の強さを実感した。
「今日の事は、私も千寿郎も一生忘れることはないだろう。君と、君達の未来を、ささやかながら祈らせてもらうよ」
「ありがとう。あたしも、あの人の意思を忘れないように、明日を生きるわ」
「それと、君にこんなことを頼むのも気が引けるが、竈門君にも謝りたいと伝えて――」
「それは駄目。ちゃんとあなた自身の言葉で伝えてよ」
槇寿郎の言葉を汐は瞬時に突っぱね、千寿郎は顔を引き攣らせ、槇寿郎は焦ったように「そうだな」と言った。
「それじゃあ、あたしはそろそろお暇するわ。あまり遅くなると、みっちゃん、師範が心配するし」
「あ、ああ、そうだな。いきなり呼びつけて本当に悪かった」
「もう、大丈夫だって。あたしはこれっぽっちも迷惑なんてしてないんだから。もしもまた何かあったら、いつでも呼んで?できる限り答えるわ」
汐はにっこりと笑ってそう言うと、槇寿郎の胸が大きく音を立てた。そして、杏寿郎が何故ああも汐の事ばかり話すのか、理解できた気がした。
「あ、じゃあ僕がお見送りをします」
玄関を出ようとする汐の後ろを、千寿郎が付いていった。