第109章 幕間その陸:煉獄邸再び
大地が、空気が揺れたような衝撃が汐から波のように伝わり、二人の身体を穿った。荒々しくも美しい旋律に、槇寿郎と千寿郎の全身に鳥肌が立った。
(これが、兄上がずっと聴きたかった、大海原さんの歌声・・・)
この世にある言葉では言い表せない洗練された歌声。全ての命が首を立てるような曲。
煉獄杏寿郎が、心から惹かれた歌が、二人の心を揺さぶっていた。
(なんて、なんて素晴らしい歌だ。いや、素晴らしいなんてものじゃない。もはや、人間の域を超えている。これが、青髪の少女の歌・・・)
その時、槇寿郎は汐の姿に、妻と息子の面影を感じた。二人の様に、彼女のまた誇り高き精神を宿していることを、感じ取ったのだ。
(ああっ・・・!!)
槇寿郎の目から、大粒の涙があふれ出し、来ていた着物を濡らしていった。青髪を揺らし、雄々しく唄を奏でるその少女から、妻と息子と同じ誇り高き精神を感じた。
それは千寿郎も同じだった。彼も、父親と同様、大粒の涙を流しながら、汐の歌に聞き入っていた。
その姿は、歌を奏でる汐の目にも入っていた。いつの間にか汐自身の目からも涙があふれ出し、頬を濡らしながら歌を奏でていた。
(煉獄さん・・・、聞こえる?あなたの為に歌った歌を、今、あなたの大切な家族も一緒に聴いているのよ)
汐は天国にいる彼の元へ届く様にと、さらに声を張り上げた。あの時の光景を、決して忘れぬようにと誓いながら。