第109章 幕間その陸:煉獄邸再び
(えっと・・・、何この空気。凄く気まずいんだけど。何か話さないと・・・。あ、でも、何を話そう)
汐は必死でこの重苦しい空気を変えようと、話題を探していた最中に、槇寿郎が突然口を開いた。
「大海原君、だったかな。君と竈門君には本当にすまないことをした。二人共、千寿郎の為に泣いてくれたそうだね。しかも、竈門君は千寿郎と手紙のやり取りをしてくれて、おかげであの子も随分元気になった」
「それは、よかったわ」
「言い訳にしか聞こえないが、私は自分の無能さに打ちのめされていた時、畳みかけるように妻、杏寿郎と千寿郎の母親を病気で失った。それからは酒に溺れ、蹲り続けたんだ。とんでもない大馬鹿者だ、私は」
槇寿郎の絞り出すような言葉を、汐は黙って聞いていた。
「杏寿郎は私などと違い、本当に素晴らしい息子だった。私が教えることを放棄した後でも、炎の呼吸の指南書を読み込んで鍛錬し、柱となった。たった三巻しかない本で。あの子は瑠火の、母親の血が濃いのだろう。彼女もまた、素晴らしい女性だった」
槇寿郎は何処か遠くを見るような目で、汐を見つめた。立て続けに妻と息子を亡くした彼の心中は、おそらく口ではとても言い表せないものだろう。
汐の心は、締め付けられるように痛くなった。