第109章 幕間その陸:煉獄邸再び
「あの時は本当にすまなかった!!気が動転していたとはいえ、あろうことか、嫁入り前の女性に手を上げてしまうとは!男として、否、人間としてあるまじきことをした!すまなかった、本当にっ・・・!!」
「父上・・・」
汐に土下座をする槇寿郎の身体は、小刻みに震えており、そんな姿を見た汐は慌てた様子で口を開いた。
「ちょっとちょっと、顔を上げてよ。顔を殴られるなんて、初めての事じゃないし。それにもう終わったことだもの。あたしは気にしてないわ」
汐の言葉に、槇寿郎は顔を上げて汐の顔を見つめた。罪悪感でいっぱいの"目"をみて、汐は静かに首を横に振った。
「ほら、大の大人が、息子の前でそんなことをするもんじゃないわよ。それに、あたしの方こそ謝らないと。あの時はあんた達も煉獄、杏寿郎さんの事でいっぱいいっぱいだったし、ほとぼりが冷めるまで来るんじゃなかったんだわ。本当にごめんなさい」
汐はそう言って、槇寿郎と千寿郎に向かって深々と頭を下げた。その姿に、今度は二人の方が慌てた様子で口を開いた。
「そ、そんな。大海原さんは悪くありません。顔を上げてください」
このままでは謝り合戦が続いてしまうと踏んだ二人は、汐をなだめるとちゃぶ台の前に座らせた。
「えっと、すぐにお茶を入れてきますね」
千寿郎はそう言って、足早に今を出て行き、居間には汐と槇寿郎だけが残された。