第107章 変わりゆくもの<肆>
その日の夕暮れ。任務から戻った善逸は、疲れた顔で蝶屋敷に戻って来た。
相も変わらず任務を嫌がる彼だったが、それよりも気がかりなことは勿論、汐の事だった。
(確か今日が、汐ちゃんが鬼殺隊を辞めるかどうかの約束の日、だったな。結局、俺は彼女の為に、何もできなかった。汐ちゃんの一番大切な気持ちも、取り戻すことができなかった)
善逸は悔しさを振り払うように目を閉じると、重い気持ちのまま門をくぐった。その瞬間、中庭の方から懐かしい"音"が聞こえてきた。
(え・・・?この"音"って・・・、まさか・・・!!)
善逸はそのまま中庭の方へ足を進め、そこにいた者の名前を呼んだ。
「汐ちゃん!」
善逸の視線の先には、縁側に座って夕日を眺める汐の姿があった。彼女はゆっくりと善逸の方へ顔を向けると、微笑みながら口を開いた。
「おかえり、善逸」
その声が善逸に届いた瞬間、彼は全てを察し、その両目からは涙があふれ出した。
「汐ちゃん・・・!君、記憶が戻ったんだね!!」
善逸は嬉しさのあまり泣きじゃくり、そんな彼をみて汐は困ったような表情をした。
「ちょっとちょっと、その顔でこっちに来ないでよ。汚いわね」
「ああ、汐ちゃんだ。この心を抉るような毒舌は、間違いなく汐ちゃんだぁ!」
「・・・喧嘩売ってんの?あんた」
汐が目を剥いて凄めば、善逸はわんわんと涙と鼻水を飛ばしながら泣きわめいた。
「はぁ。全く、あんたは相変わらずね。あ、それはそうと、あたし、もうすぐ任務に復帰出来るみたいなの」
「えっ、そうなの?」
「うん。記憶を取り戻した分、暴れてやるわ!」
そう言って拳を握る汐に、善逸は嬉しそうに微笑んだ。
「でもその前に、あんたにはちゃんとお礼を言わないとね」
汐はそう言って善逸と向き合うと、歯切れのいい声で言った。