第107章 変わりゆくもの<肆>
「どかせ」
「ん?」
「腕をどかせ」
だが、猗窩座は童磨の返答を待つことなく、その拳を容赦なく彼の顎に叩き込んだ。
骨が砕ける音が響き、鮮血が吹き出すと、半天狗はその様子を見てか細い悲鳴を上げた。
「おおっ」
しかし童磨はそれに全く意にも課さず、それどころか嬉しそうな表情で顔を上げた。
その顔はすでに再生しており、微かな傷跡しか残っていなかった。
「うーん、いい拳だ!前よりも少し強くなったかな?猗窩座殿」
童磨のこの言葉が耳に入った瞬間、猗窩座の顔中に青筋が浮かび上がった。
このままでは争いは避けられない。誰もがそう思った時、鳴女がそっと口を開いた。
「上弦の壱様は、最初に御呼びしました。ずっとそこにいらっしゃいますよ」
彼女の言葉に猗窩座は肩を震わせ、示された方向に顔を向けた。
そこには、一人鎮座する【上弦の壱】、【黒死牟】の姿があった。
「私は・・・、ここにいる・・・」
黒死牟は振り返りもせず、そのまま静かな声でそう言ったが、次に発した言葉に、全員の体が震えた。
「無惨様が・・・、御見えだ・・・」
その言葉通り、猗窩座の背後には、上下逆さまになった部屋で一人実験をしている無惨の姿があった。
童磨以外の全員の顔に緊張が走り、半天狗は相も変わらずか細い悲鳴を上げていた。
「妓夫太郎が死んだ。上弦の月が欠けた」
試験官に落ちる水音を響かせながら、無惨は淡々と言葉を口にした。
「誠に御座いますか!それは申し訳ありませぬ!」
それに真っ先に反応したのは童磨であり、彼はにやにやとした笑みを浮かべながら謝罪の言葉を口にした。
「妓夫太郎は俺が紹介した者故・・・、どのように御詫び致しましょう。目玉をほじくり出しましょうか?それとも・・・」
だが、その言葉とは裏腹に、童磨の表情は、まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようなものだった。